記事公開日
なぜクリーンルームにホコリが?対策の現場で起きやすいお困りごとと対処法

クリーンルームは外部からの微粒子の侵入を防ぎ、室内の清浄度を一定以上に保つための専用空間です。
しかし、実際の運用現場では「きちんと管理しているはずなのにホコリが出る」「清浄度がなかなか安定しない」といった悩みが尽きないという声は少なくありません。
本記事では、クリーンルームにホコリが発生する要因を整理したうえで、現場で起きやすいお困りごとと、その対処法について解説します。
クリーンルームにホコリが発生する主な要因
クリーンルームのホコリは、一つの原因で発生するケースよりも、複数の要因が重なっているケースの方が多い傾向にあります。
まずは、代表的な発生要因を確認していきます。
人の出入りによる持ち込み
クリーンルーム内のホコリの発生源として最も大きな割合を占めるのが、人です。
作業者の皮膚からは皮膚片が、頭髪からは抜け毛などが発生します。
これらがクリーンウエアを着用していても、袖口や裾のすき間からわずかに漏れ出ることも考えられます。
さらに、入室時にエアシャワーや粘着マットを通過する手順が不十分だと、衣服や靴底に付着した外部のホコリがそのまま室内に持ち込まれてしまいます。
人の動作そのものが気流を生み、堆積した微粒子を再び舞い上がらせる原因にもなるため、人の出入りはホコリ管理上の最大のポイントです。
設備や装置から発生する微粒子
クリーンルーム内に設置されている製造装置や搬送設備も、微粒子の発生源になります。
モーターやベアリングなどの駆動部は摩耗によって金属粉や樹脂粉を放出しますし、ケーブルの被覆が擦れることで繊維状の微粒子が発生するケースもあります。
装置を新たに導入した直後や、メンテナンス後に清掃が不十分なまま稼働を再開した場合にも、一時的に発塵量が増加することがあります。
設備由来のホコリは発生箇所が特定しにくいことも多く、問題が顕在化するまでに時間がかかる傾向があります。
資材・梱包材からの発塵
製造に使用する原材料や部品、それらを包む梱包材もホコリの発生源になります。
特に段ボールや紙類は繊維くずが出やすく、クリーンルーム内に持ち込むだけで微粒子が発生する原因になり得ます。
こうした梱包材を開封する際には樹脂フィルムやビニール袋が静電気を帯び、周囲のホコリを吸着して再び飛散させてしまうこともあります。
さらに見落としがちなのが、クリーンルーム用のワイパーや手袋といった消耗品です。
製品のグレードによっては繊維の脱落が生じることがあるため、使用する資材そのものの選定にも目を配る必要があります。
気流の乱れによる再飛散
クリーンルームの清浄度を維持するうえで、設計された通りの気流パターンが保たれていることは非常に重要です。
天井からの層流(ラミナーフロー)によって微粒子を床面のリターングリルへ押し流す仕組みが一般的ですが、この気流が乱れると、一度沈降した微粒子が再び舞い上がり、室内の清浄度が悪化します。
気流を乱す原因としては、設備のレイアウト変更、作業台や仕掛品の過度な積み上げ、ドアの頻繁な開閉、作業者の急な動きなどが挙げられます。
気流の乱れは目に見えないため、パーティクルカウンターの測定値が悪化して初めて気づくケースが多いのが実情です。
現場で多いお困りごと
発生要因を踏まえたうえで、クリーンルームの運用現場で実際に多く聞かれるお困りごとを見ていきます。
清浄度が基準値をクリアできない
定期的なパーティクル測定で清浄度が基準値を満たせないというのは、管理者にとって最も深刻なお困りごとの一つです。
基準を超えた場合は原因の特定と改善が急務になりますが、発生源が複合的であるために調査に時間がかかることも珍しくありません。
フィルターの劣化、入室管理の不徹底、設備からの発塵など、複数の要因が同時に影響しているケースでは、一箇所を改善しても数値が改善しないことがあり、対応が長期化しやすい傾向があります。
特定のエリアだけホコリが目立つ
クリーンルーム全体ではなく、特定の場所だけにホコリが集中するというお困りごとも頻繁に見られます。
このような場合、その場所が気流の死角になっていたり、近くに発塵源となる設備や資材が置かれている可能性があります。
壁際や設備の裏側、リターングリル付近などは気流が滞留しやすく、微粒子がたまりやすいポイントです。
目視ではわかりにくい場合、スモークテスターやパーティクルカウンターを使って気流の状態を確認すると、原因の特定につながりやすくなります。
清掃してもすぐに汚れが戻る
清掃直後は清浄度が改善するものの、短時間で元に戻ってしまうという状況は、発生源そのものが解消されていない可能性を示しています。
清掃はあくまでホコリを除去する行為であり、発生を止める効果はありません。
また、清掃方法自体に問題があるケースもあります。
通常の掃除用具をクリーンルーム内で使用すると、用具そのものが発塵源になることがあります。
使用するワイパーやモップがクリーンルーム対応のものかどうか、清掃手順が適切かどうかも見直す必要があります。
製品への異物付着が減らない
清浄度の数値は許容範囲内にもかかわらず、製品への異物付着による不良が減らないというケースもあります。
この場合、パーティクルカウンターが捕捉しにくい粗大粒子や繊維状の異物が原因となっている可能性があります。
繊維状の異物はクリーンウエアやワイパーなどから脱落したものであることが多く、通常の清浄度測定では検出されにくい特徴があります。
可視化用の専用ライトを用いて目視確認を行うことで、発生源や付着箇所の特定が容易になるケースもあります。
お困りごとの背景にある原因
お困りごとの表面的な症状だけに対処しても、根本原因を解消しなければ問題は再発します。
ここでは、背景にある共通的な原因を掘り下げます。
入室手順やルールの形骸化
クリーンルームの運用開始当初はルールが徹底されていても、時間が経つにつれて手順が省略されたり自己流に変わったりすることがあります。
エアシャワーの滞在時間が短くなる、粘着ローラーの使い方が不十分になるなど、一つひとつは小さな逸脱であっても、積み重なれば清浄度に大きく影響します。
特に作業者の入れ替わりが多い現場では、新しい担当者への教育が追いつかず、ルールの理解度にばらつきが生じやすくなります。
形骸化は意識しなければ気づきにくいため、定期的なチェックの仕組みを作ることが重要です。
フィルターや空調設備の性能低下
クリーンルームの清浄度を維持する要となるのが、HEPAフィルターやULPAフィルターをはじめとする空調設備です。
フィルターは使用を続けるうちに微粒子が蓄積して目詰まりが進み、風量が低下します。風量が下がると室内の陽圧が維持できなくなり、外部からの汚染空気が侵入しやすくなります。
フィルターの交換時期を適切に管理していない場合や、差圧計の確認が行われていない場合は、性能低下に気づくのが遅れがちです。
空調設備全体の定期点検と合わせて、フィルターの状態を継続的に監視する体制が求められます。
清掃方法や使用資材のミスマッチ
クリーンルームの清掃には、一般的な清掃とは異なる手法や資材が必要です。発塵の少ないワイパーやモップを使い、拭き取りの方向や順序にも決まりがあります。
こうした専用の清掃手順を守らずに一般的な用具で清掃すると、かえって微粒子を拡散させてしまうことがあります。
使用する薬液の選定も重要です。クリーンルーム内の素材に適さない洗浄剤を使うと、残留物がホコリの付着を促進する場合があります。
清掃の方法と使用資材を定期的に見直し、クリーンルームの清浄度クラスに見合ったものが使われているかを確認することが大切です。
改善に向けた対処法
お困りごとの原因が把握できたら、改善に向けた具体的な対処を進めていきます。
ここでは、効果が出やすい基本的なアプローチを紹介します。
発生源を特定する現状把握
改善の第一歩は、どこから、どのようなホコリが発生しているのかを正確に把握することです。
パーティクルカウンターによる定点測定に加え、気流の可視化や専用ライトによる目視検査を組み合わせることで、発生源の特定精度が高まります。
異物の成分分析を行えば、ホコリの発生源が人由来なのか、設備由来なのか、資材由来なのかを切り分けることも可能です。
やみくもに対策を講じるよりも、まず現状を正確に把握することが、結果的に最短の改善ルートになります。
運用ルールの見直しと教育
現状把握の結果を踏まえて、入室手順や清掃手順などの運用ルールを見直します。
ルール自体が現場の実態に合っていない場合は、実行可能な内容に修正することも必要です。どれだけ厳格なルールを定めても、守れなければ意味がありません。
見直した内容は、すべての作業者に対して教育を行い、理解と実践を徹底します。
一度の研修で終わらせず、定期的な再教育や実技確認の場を設けることで、ルールの形骸化を防ぎやすくなります。
チェックリストによる日常的な確認の仕組みを整えることも有効です。
気流設計と局所的な対策の組み合わせ
清浄度の改善には、クリーンルーム全体の気流設計を見直すことが効果的ですが、大規模な改修はコストや時間の面で容易ではありません。
そのような場合は、問題が集中しているエリアに局所的な対策を施すアプローチが現実的です。
たとえば、特に清浄度が求められる工程の周囲にクリーンブースを設置したり、発塵源の直近に局所集塵や気流制御の仕組みを追加したりすることで、クリーンルーム全体を改修しなくてもピンポイントで清浄度を向上させることができます。
その際に意識しておきたいのが、クリーンルームの清浄度クラスとフィルターの選定です。
ISOクラス(ISO 14644-1)では、1立方メートルあたりの微粒子数に応じてクラス1からクラス9まで定義されており、クラスの数値が小さいほど高い清浄度が求められます。
一般的な目安として、ISOクラス5以上の高清浄度が必要な環境ではULPAフィルター、ISOクラス6~7程度であればHEPAフィルターが使用されるケースが多くなります。
局所対策としてクリーンブースや気流制御装置を導入する場合も、対象エリアに求められる清浄度クラスに応じたフィルターを選定することが、効果を確実に得るための前提となります。
全体の気流バランスを崩さないように注意しながら、局所対策と全体設計を組み合わせていくことが、改善を着実に進めるための現実的な考え方です。
まとめ
クリーンルームのホコリは、人の出入り、設備や資材からの発塵、気流の乱れなど、さまざまな要因が複合的に絡み合って発生します。
お困りごとの多くは、単独の原因ではなくこれらの要因が重なった結果であるため、表面的な対処だけでは問題が再発しやすい傾向にあります。
改善に向けては、まず発生源を正確に特定し、運用ルールの見直しや教育の徹底、気流設計と局所対策の組み合わせといった手順で段階的に取り組むことが効果的です。
日々の管理と定期的な見直しを継続しながら、安定した清浄度の維持を目指していきましょう。

