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製造業で粉塵対策が必要な理由とは?リスクと対策方法をわかりやすく解説

製造業の現場では、加工や搬送などさまざまな工程で粉塵が発生します。
目に見えにくい微細な粉塵であっても、放置すれば作業者の健康や製品の品質に深刻な影響を及ぼしかねません。
さらに、粉塵の種類や量によっては爆発や火災の原因になることもあり、安全面でも大きなリスクを抱えることになります。
本記事では、製造業において粉塵対策が求められる理由を整理したうえで、関連する法令や基本的な対策の考え方についてわかりやすく解説します。
そもそも粉塵とは何か
粉塵対策を考えるうえで、まずは粉塵そのものの性質や、製造現場のどこで発生しやすいのかを理解しておくことが大切です。
粉塵の定義と種類
粉塵とは、固体の物質が粉砕・切削・研磨などの物理的な力を受けて微細な粒子となり、空気中に浮遊しているものを指します。
粒子の大きさはさまざまで、肉眼で確認できるものから、数μm以下の極めて小さなものまで幅広く存在します。
種類としては、金属の加工で生じる金属粉じん、鉱石やセメントなどから発生する鉱物性粉じん、木材や穀物、繊維などに由来する有機性粉じんの3つに大きく分けられます。
それぞれ性質やリスクが異なるため、対策を検討する際にはまず自社の現場でどのような粉塵が発生しているかを把握することが出発点になります。
製造業で粉塵が発生しやすい工程
製造業のなかでも、特に粉塵が発生しやすいのは物理的な加工を伴う工程です。
たとえば金属の切削や研磨では、加工面から微細な金属粒子が大量に飛散します。
粉体原料の計量・投入・搬送といった工程でも、袋を開封するタイミングやコンベアからの落下地点などで粉塵が舞い上がりやすくなります。
また、レーザーマーカーやレーザー加工機を使用する工程では、素材の表面が熱で蒸発してヒューム(金属蒸気が冷えて微細な粒子になったもの)が発生します。
溶接作業でも同様にヒュームが生じるため、これらの工程は粉塵対策の重要なポイントとなります。
製造業で粉塵対策が必要な理由
粉塵を放置すると、現場にはさまざまなリスクが生じます。ここでは、対策が求められる主な理由を4つの観点から整理します。
作業者の健康被害リスク
粉塵対策が必要な最も大きな理由は、作業者の健康を守ることにあります。
粉塵を長期間にわたって吸い込み続けると、肺の内部に粒子が蓄積し、じん肺と呼ばれる呼吸器疾患を引き起こすおそれがあります。
じん肺は現在の医療技術をもってしても根本的な治療が難しい疾患であり、一度発症すると元の状態に戻すことができません。
特に粒径が4μm以下の吸入性粉じんは、鼻やのどで捕捉されずに肺の奥深くまで到達するため、健康への影響が大きいとされています。
こうしたリスクがあるからこそ、発生する粉塵の量や種類に応じた適切な対策が欠かせません。
製品品質や歩留まりへの影響
粉塵は作業者だけでなく、製品にも悪影響を与えます。
電子部品や精密機器の製造工程では、微細な粒子が基板や部品に付着するだけで不良品の原因になります。
塗装工程においても、塗面にゴミやホコリが付着すれば仕上がり品質が低下し、手直しや廃棄が増えることで歩留まりの悪化につながります。
粉塵による品質トラブルは、見た目にわかりにくい場合もあるため、原因の特定に時間がかかることも少なくありません。
生産効率を維持するうえでも、粉塵の管理は軽視できない課題といえます。
粉塵爆発・火災の危険性
可燃性の粉塵が空気中に一定以上の濃度で浮遊している状態は、着火源があれば爆発を引き起こす危険性を持っています。
特にアルミニウムやマグネシウムなどの金属粉は爆発リスクが高く、過去にも国内外で死傷者を伴う重大な事故が発生しています。
粉塵爆発は通常の火災よりも衝撃波が大きく、建物の倒壊や二次爆発を招くこともあるため、被害が甚大になりやすい特徴があります。
こうした事故を未然に防ぐためには、粉塵の堆積や飛散を許さない環境づくりが不可欠です。
法令による事業者への義務
粉塵対策は、企業の自主的な取り組みにとどまらず、法律によって事業者に義務づけられています。
労働安全衛生法に基づく粉じん障害防止規則では、粉じん作業を行う事業場に対して、設備の改善や作業環境の整備など必要な措置を講じるよう定めています。
この義務を果たさずに労働災害が発生した場合、行政指導や刑事罰の対象となる可能性もあるため、法令を正しく理解し、遵守することが経営上も重要な課題となっています。
粉塵に関わる主な法令・基準
前述の通り、粉塵対策には法令上の義務が伴います。ここでは、製造現場に関わりの深い規則と基準の要点を確認します。
粉じん障害防止規則の概要
粉じん障害防止規則は、1979年に制定された労働安全衛生法に基づく省令で、粉じんにさらされる労働者の健康障害を防止するための具体的なルールを定めています。
対象となる粉じん作業は大きく「一般粉じん作業」と「特定粉じん作業」に分けられており、特定粉じん作業については局所排気装置の設置や除じん装置の併用など、より厳格な措置が求められます。
さらに、屋内の粉じん作業場においては毎日1回以上の清掃義務があり、月1回以上は真空掃除機や水洗いなど粉じんが飛散しない方法での定期清掃も必要とされています。
このように、設備面だけでなく日常の管理面まで細かく規定されている点が特徴です。
作業環境測定と管理濃度の基本
粉じん障害防止規則では、屋内の粉じん作業場において6か月以内ごとに1回、空気中の粉じん濃度を測定することが義務づけられています。
測定方法にはA測定とB測定の2種類があり、A測定で作業場全体の平均的な濃度を、B測定で発散源付近の最高濃度をそれぞれ把握します。
測定結果は「管理濃度」と呼ばれる基準値と比較し、第1管理区分から第3管理区分までの3段階で評価されます。
第1管理区分であれば良好な状態として現状維持を図り、第2・第3管理区分に該当する場合は速やかに作業環境の改善が必要です。
なお、2024年4月からは第3管理区分と判定された事業場に対し、外部の専門家への意見聴取が義務化されるなど、規制はさらに強化される傾向にあります。
現場で取り組む粉塵対策の基本的な考え方
実際に対策を進める際は、優先順位を意識して手段を組み合わせることが重要です。
ここでは、基本的なアプローチを順を追って紹介します。
発生源での対策が最優先
粉塵対策を考えるうえで、最も効果が高いのは発生源そのものを抑えるアプローチです。
たとえば、乾式で行っていた加工を湿式に切り替えることで粉塵の飛散を大幅に低減できるケースがあります。
また、粉体原料の投入方法を密閉式に変更したり、搬送経路を見直したりすることでも、発塵量を減らすことが可能です。
ただし、工程の特性上、発生源を完全に封じ込めることが難しい場合も多いため、次に述べる集塵や排気による対策と組み合わせて考えることが現実的な進め方になります。
局所排気・集塵による拡散防止
発生源での対策だけでは粉塵を完全に抑えきれない場合、発生した粉塵を速やかに捕集して拡散を防ぐ方法が有効です。
代表的な手段が、粉塵の発生箇所に設置する局所排気装置や集塵機です。
局所排気装置は、発生源のできるだけ近くにフードを設置し、粉塵を吸い込んで作業場内への拡散を防ぎます。
この方式は全体換気に比べて少ない風量で高い効果が得られるため、多くの製造現場で採用されています。
集塵機はフィルターなどで粉塵を分離・回収する装置で、局所排気装置と組み合わせて使用するのが一般的です。
なお、粉じん障害防止規則では特定粉じん作業に対して局所排気装置の設置を義務づけており、一定の作業については除じん装置の設置も求められています。
作業者の保護具による補助的対策
設備による対策を講じたうえで、なお粉塵へのばく露が懸念される場合には、防じんマスクなどの呼吸用保護具を使用します。
保護具はあくまで設備面の対策を補う位置づけであり、保護具の着用だけで粉塵対策が完了するわけではありません。
保護具を使用する際は、作業で発生する粉塵の種類や濃度に応じた性能のものを選定し、正しいフィットテストを行ったうえで着用することが重要です。
顔との隙間があると粉塵が侵入してしまい、十分な防護効果を発揮できません。
粉塵対策を進めるうえで押さえておきたいポイント
対策の効果を持続させるには、導入時の判断だけでなく、運用段階での管理にも目を向ける必要があります。
粉塵の種類と粒径に応じた対策選定
粉塵対策を効果的に行うためには、対象となる粉塵の種類と粒径を正しく把握するところから始まります。
金属粉のように重い粒子は発生源付近に落下しやすく、比較的捕集しやすい傾向がありますが、サブミクロン領域の微細な粒子は空気中に長時間漂うため、より高性能なフィルターや集塵方式が必要になります。
また、可燃性の粉塵を扱う場合は防爆仕様の設備を選定する必要があり、腐食性のある粉塵であれば装置の素材にも配慮が求められます。
粉塵の性質を無視した対策では十分な効果が得られないだけでなく、新たなリスクを生む可能性もあるため、事前の調査と適切な選定が重要です。
設備導入だけで終わらせない運用管理の重要性
集塵機や局所排気装置を導入しても、それだけで対策が万全になるわけではありません。
フィルターの目詰まりや配管内への粉塵の堆積が進めば、設備本来の性能を発揮できなくなります。
定期的な点検やフィルター交換、配管の清掃など、継続的なメンテナンスを計画に組み込むことが不可欠です。
加えて、作業手順や清掃ルールを現場に周知徹底し、形骸化させない仕組みをつくることも大切です。
設備と運用の両面から粉塵対策に取り組むことで、はじめて安全で生産性の高い作業環境が実現します。
まとめ
製造業における粉塵対策は、作業者の健康を守り、製品品質を維持し、爆発や火災といった重大事故を防ぐために不可欠な取り組みです。
加えて、粉じん障害防止規則をはじめとする法令によって事業者には具体的な措置が義務づけられており、法令遵守の観点からも対策を怠ることはできません。
効果的な粉塵対策を進めるには、まず自社の現場でどのような粉塵が発生しているかを正確に把握し、発生源対策・集塵設備の導入・保護具の使用を組み合わせることが基本となります。
そのうえで、導入した設備の性能を維持するための運用管理にも目を向け、継続的に改善を図っていくことが大切です。

