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溶接ヒュームとは?健康被害のリスクと法改正に基づく効果的な対策

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金属加工の現場で日常的に行われる溶接作業では、加熱された金属から煙のようなものが発生します。
これは単なる煙ではなく、「溶接ヒューム」と呼ばれる有害な金属の微粒子です。
2021年の法改正により規制が強化され、事業者にはさまざまな対策が義務付けられました。

本記事では、溶接ヒュームの基礎知識をはじめ、健康への影響や法改正の内容、現場で実践できる対策までをわかりやすく解説します。

溶接ヒュームの基礎知識

まずは、溶接ヒュームとは何か、どのように発生し、どのような成分が含まれているのかを見ていきましょう。

溶接ヒュームとは

溶接ヒュームは、溶接時の高温によって金属が蒸発し、その蒸気が空気中で冷やされて生成される微細な金属粒子です。
一見すると気体の煙のように見えますが、実際には金属が固体のまま微小な粒子となって空気中に漂っています。

粒子の大きさは約0.1〜1マイクロメートルと非常に小さく、肉眼では確認できません。
そのため空気中に長時間漂いやすく、呼吸とともに鼻や喉を通り抜けて、肺の奥まで入り込みやすいという特徴があります。

発生の仕組みと原因

溶接ヒュームは、主にアーク溶接(金属同士を電気の熱で接合する溶接方法)など高温になる溶接作業で発生します。
電気によって発生する非常に高い熱で、母材や溶接材料(溶接棒やワイヤ)が蒸発し、その蒸気が急速に冷やされることで、微細な粒子へと変化します。

発生量には、次のような条件が影響します。

  • 溶接電流や電圧の設定
  • 使用する溶接棒やワイヤなどの種類
  • 被覆材やフラックス(溶接を安定させる薬剤)の成分
  • シールドガス(溶接部を空気から保護するガス)の種類や流量

一般的に、溶接部の温度が高くなるほど金属の蒸発量が増えるため、発生する溶接ヒュームの量も多くなります。

有害な含有成分

溶接ヒュームに含まれる成分は、母材や溶接材料の種類によって異なります。
一般的な鋼材やステンレス鋼を溶接する場合は、複数の金属酸化物が混ざり合った状態になります。

代表的な成分は次のとおりです。

  • 酸化鉄
  • マンガン(酸化マンガン)
  • アルミニウム
  • ケイ素
  • クロムやニッケル(ステンレス鋼を溶接する場合など)

なかでもマンガンやクロム、ニッケルは、人体への毒性や発がん性が指摘されている物質です。
溶接ヒュームは、有害な化学物質を含む微粒子であり、吸い込み続けると健康に深刻な影響を及ぼすおそれがあります。

人体や健康に与える影響

溶接ヒュームを吸い続けると、身体にはどのような影響が現れるのでしょうか。
ここでは、呼吸器への障害やマンガンによる神経障害について詳しく解説します。

吸入による健康リスク

溶接ヒュームに含まれる微粒子は肺の奥深くまで入り込み、長期間吸い続けると呼吸器にさまざまな障害を引き起こします。
初期には目や鼻、喉の粘膜が刺激され、咳や痰、息苦しさなどの症状が現れます。

吸入を繰り返すことで発症する代表的な病気が「じん肺」です。
じん肺とは、肺に金属などの粉塵が蓄積し、肺の組織が硬くなる病気を指します。
進行すると肺の機能が低下し、少し体を動かしただけでも息切れしやすくなります。
一度低下した肺機能は元に戻ることはありません。

また、ステンレス鋼の溶接で発生する六価クロムやニッケルには発がん性があり、肺がんや鼻腔がんの発症リスクを高めることが知られています。

マンガンによる神経障害

溶接ヒュームによる健康被害の中でも、近年特に注目されているのがマンガンによる神経障害です。
多くの溶接材料には、金属の強度を高めるためにマンガンが含まれており、溶接ヒュームにも微細なマンガン化合物が含まれています。
マンガンを含む微粒子を継続して吸い込むと、一部が血液を通じて脳に運ばれ、少しずつ蓄積します。
その結果、パーキンソン病に似た症状が現れる「慢性マンガン中毒」を発症するリスクが高まります。

具体的な症状としては、手足の震え、歩行しにくくなる、動作が遅くなる、言葉が出にくくなるなどがあります。
神経系が受けたダメージは回復が難しいため、症状が現れる前の事前対策が極めて重要です。

法改正と事業者の義務

溶接ヒュームによる健康被害を防ぐため、2021年に労働安全衛生法関連の法令が改正されました。
これにより、事業者には作業環境の改善や健康管理など、さまざまな対応が求められています。
ここでは、法改正のポイントと事業者が実施すべき内容を紹介します。

特定化学物質への指定

2021年4月の労働安全衛生法施行令の改正により、溶接ヒュームに含まれる塩基性酸化マンガンは特定化学物質(第2類物質)に指定されました。
これを受けて、溶接ヒュームは単なる粉じんではなく、健康への影響が大きい化学物質として管理されるようになりました。

対象となるのは、屋内で継続して金属アーク溶接等作業を行う事業者です。
作業者が溶接ヒュームを吸い込まないよう、法令に基づいた対策を講じる必要があります。

作業場における濃度測定

屋内で金属アーク溶接等作業を行う場合は、溶接ヒュームの濃度を測定しなければなりません。
測定には、作業者が実際に呼吸する位置で濃度を確認する「個人ばく露測定」という方法が採用されています。

測定の結果、厚生労働省が定める基準値(マンガンとして0.05mg/m³)を超えた場合は、速やかに改善措置を実施する必要があります。
具体的には、全体換気装置の能力を見直したり、局所排気装置を設置・改善したりする対応が挙げられます。
また、測定結果は記録として保存するとともに、作業者へ周知しなければなりません。

主任者選任と健康診断

法改正では、作業環境の管理だけでなく、管理体制の整備や健康管理についてもルールが明確になりました。

主な対応は次のとおりです。

  • 特定化学物質作業主任者の選任:作業手順の決定や換気設備の点検、保護具の使用状況の確認などを行います。
  • 特殊健康診断の実施:溶接作業に従事する労働者を対象に、6か月以内ごとに1回、特殊健康診断を実施します。
  • 記録の作成・保存:個人ばく露測定の結果や健康診断個人票は、30年間保存しなければなりません。

これらの対応を怠ると法令違反となり、行政指導や是正命令の対象となる可能性があるため、必要な体制をあらかじめ整えておく必要があります。

作業者を守る保護対策

換気設備の整備に加え、作業者自身を守るための対策も重要です。
溶接ヒュームの吸入を防ぐには、適切な呼吸用保護具を選び、正しく装着しなければ十分な効果は得られません。
ここでは、保護具の選び方と、密着性を確認するフィットテストについて解説します。

防じんマスクなどの着用

溶接作業では、溶接ヒュームの吸入を防ぐため、防じんマスクや電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR:電動ファンで清浄な空気を送り込む保護具)を使用します。
着用する保護具は、個人ばく露測定の結果に応じた指定防護係数を満たすものを選ぶ必要があります。

使い捨て式の防じんマスクを使用する場合は、国家検定に合格した規格品を使用しなければなりません。
また、フィルターが目詰まりすると呼吸がしにくくなるだけでなく、十分な性能を発揮できなくなります。
そのため、定期的に交換するルールを定めて活用することが大切です。

マスクのフィットテスト

高性能な防じんマスクを使用していても、顔とマスクの間に隙間があると、そこから溶接ヒュームを吸い込んでしまいます。
そのため、マスクが顔にしっかり密着しているかを確認する「フィットテスト」を年に1回実施することが義務付けられています。

フィットテストでは、専用の測定器を使ってマスクの外側と内側の粉じん濃度を比較し、漏れの程度を数値で確認します。
基準を満たしたことを確認したうえで、作業者ごとの顔の形に合ったサイズや種類のマスクを着用させなければなりません。
適切な防護効果を得るためにも、定期的な実施を徹底しましょう。

現場の効果的な換気対策

溶接ヒューム対策では、作業場全体のヒューム濃度を抑える設備対策も重要です。
現場の規模や作業内容に応じて適切な換気設備を導入し、保護具と組み合わせて運用することで、より安全な作業環境を整えられます。

全体換気による濃度低減

全体換気は、工場や作業場全体の空気を定期的に入れ替え、室内に漂う溶接ヒュームの濃度を薄める方法です。
壁面に設置した有圧換気扇や給気口を活用し、施設全体の気流を循環させます。

ただし、全体換気だけでは、溶接箇所で発生する高濃度のヒュームをすぐに除去することはできません。
そのため、建物全体の空気環境を改善する補助的な対策として位置付け、局所排気装置などと組み合わせて運用することが大切です。

局所排気とヒュームコレクターの活用

溶接ヒュームを効率よく除去するには、発生源の近くで吸引する「局所排気」が効果的です。
移動式のフードやフレキシブルダクトを溶接箇所に近づけ、ヒュームが作業者の呼吸域へ広がる前に吸い取ります。

吸引したヒュームをそのまま屋外へ排出すると、周辺環境へ影響を与えてしまいます。
そのため、高性能フィルターを備えた「ヒュームコレクター(溶接ヒューム用集じん機)」で微細な金属粒子を捕集する方法が一般的です。
適切な集じん機を導入すれば、空気を浄化できるため、屋外排気設備の負担を抑えられる場合もあります。

換気と保護具の組み合わせ

溶接ヒューム対策では、換気設備による「環境改善」と、呼吸用保護具による「個人防護」を組み合わせることが基本です。
設備だけで溶接ヒュームを完全に除去することは難しく、保護具だけでは作業環境そのものを改善できません。
局所排気装置やヒュームコレクターでヒュームの発生を抑えたうえで、適切な保護具を正しく使用することで、より高い効果が期待できます。

それぞれの対策を組み合わせて実施することが、法令への対応だけでなく、作業者が安心して働ける環境づくりにもつながるでしょう。

まとめ

溶接ヒューム対策を進めるには、まず個人ばく露測定を実施し、作業場のヒューム濃度を正しく把握することが大切です。
また、特定化学物質作業主任者の選任、局所排気装置やヒュームコレクターの導入、防じんマスクなどの呼吸用保護具の適切な使用といった対策を組み合わせて進めましょう。

安全な作業環境を実現するには、設備による換気対策と呼吸用保護具の活用を両立させることが重要です。
まずは現在の作業環境を見直し、溶接ヒュームの発生状況や換気設備、保護具の運用状況を確認してみましょう。
そのうえで、自社の状況に合わせた対策を計画的に進めていくことが大切です。

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